祝日ラプソディ3

友人が馬に乗ってやって来た。

黒くて力強い、丁寧に躾けられた上品な馬だ。きみも見ればわかる。彼もそれをわかっているのだろう。ぼくはそれに見惚れて声をかけるのを忘れてしまっていた。

「やあ、久しぶり。元気にやっていたか」
ぼくはそれに答えずやはり馬を眺めている。それはとても美しく、今まで見たことのある中で最も馬以上でなく、馬以下でもない馬だ。
「こいつか?きみが見惚れるのも無理はない。あれから長い時間が経ったからね。きみに会うためにここまでやって来たんだ。ほんとうに、長い時間だった。もう忘れられてしまったかと思ったよ。」
ぼくは自分の中でそこにある全てを飲み込んで、気持ちを整えた。
「そうだね、久しぶりだ。最後に会ったのはいつのことだったろう。きみのことを忘れるはずがないだろう、また会えて嬉しいよ。」
「そう言ってもらえるとぼくも嬉しい。」彼は馬から降りてそいつを軽く撫でてあげた。そうするとその馬は軽く首を下げてからその場を離れていった。
「積もる話もあるだろう。ちょっとお茶でも飲みながらきみのことを話してくれよ。」
ぼくが答える間も無く彼はドアを開けてぼくの家へと入っていく。
「お前も変わらないな。おれが出て行った時のままじゃないか。」
彼は自分で食器棚からカップを取り出しお湯を沸かしてお茶を注いだ。
「ああ、確かにそうかもしれない。染み付いた生活はそんな簡単に変えられるものじゃないからな。」
それからぼくらは昼夜を忘れ昔話に耽った。今の話も未来の話もない。彼と語る物事は全て過去のものだ。古い記憶を手繰り寄せながら、ああだったこうだったとひたすらに話し続けた。
そして4日目の夜、彼は玄関の扉を開けてぼくの家から出て行った。来た時とは違って豊満な牛が大きな荷物を携えて彼を待っていた。
「ありがとう、きみと話せて良かった。本当に楽しい時間を過ごさせてもらえたよ。」
「それなら良かった、ぼくも楽しかった。また会えるかな?」
「そうだね、また来年にでも」
彼はそう言って深い闇へと消えていった。


夏のとても短い、ほんの少し懐かしい人と出会える時間のこと。それを日本ではお盆と云う、死者が訪れてくる束の間の出来事だ。